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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)6317号 判決 1976年5月18日

原告 宗教法人観音院 ほか一名

被告 国 ほか一名

訴訟代理人 杉浦栄一 山田雅夫 ほか二名

主文

一  原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告両名の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  原告観音院が本件第一、(一)の土地を所有していたところ、被告国の委任を受けた東京都知事が昭和二三年三月二日右土地を自創法三〇条一項一号に基づき未墾地買収し、その後右土地を同法四一条一項一号に基づいて第三者に売渡したことは当事者間に争いがない。

原告両名は、右土地の買収処分は農地を未墾地としてなした違法、無効なものであるところ、転得者において右土地の所有権を時効により取得し、その結果原告観音院が右土地の所有権を、原告浮岳トヨが耕作権を喪失し、それぞれ損害を被つた旨主張する。

二  そこで先ず、本件買収処分の違法性の有無について判断する。

<証拠省略>を総合すれば、(一)本件第一、(一)の土地は、もと松山あるいは六反山と呼ばれ、松、なら、くぬぎ等が生立していた平地林であつたが、昭和二一年ころは、戦後の燃料不足のために大部分が伐採され、ところどころに雑木を残す状況であつたところ、当時観音院の住職であつた夫と死別した原告浮岳トヨは、壇家や親類の手助けをかりて、伐根を掘り起こし、昭和二二年四月ころから、右土地の一部にもろこし、甘薯の植付を行なつた。口しかし、右土地の耕作については、食糧難の一助とすることと併せて未墾地買収を免れる目的があつたもので、耕作の内容、程度も、開墾後の昭和二二年ころにおいても依然としてかや、しのざさ、雑草が生いしげり、樹木も残つている状況であり、耕作には原告本人と弟の二人のみが従事し、耕作面積も三畝ないし五畝程度であつて、右土地のごく一部で行なわれていたに過ぎなかつた。(三)また、当時多磨村において、農業を行なうためには、実行組合に登録、加入して肥料の配給を受ける一方、食糧供出の責任を負い、農地として維持管理する義務があつたものであるが、原告浮岳トヨは、これらのことは一切行わず、肥料も、人肥を施していた程度であつて、それ以上の肥培管理というべき程のことはしていなかつたことがそれぞれ認められる。<証拠省略>のうち右認定に反する部分は採用できず、他にこれに反する証拠はない。

ところで、当該土地が農地であるか否かの判断にあたつては、土地の来歴、形質、現況、耕作の内容その他諸般の事情を考慮して客観的にこれを定めなければならないのであつて、現実に耕作されている土地であつても必ずしも常に農地とされるわけではないことはいうまでもないところ、前記認定によると、原告浮岳トヨは、右土地において、もろこし、甘薯を栽培していたとはいうものの、前記認定のような状況下における本件土地の利用であつて、しかも耕作面積、規模は狭小であり、形質も農地として整地され、肥培管理されたものとはいいがたいから、右土地の耕作状況はいわゆる家庭菜園の域を出ないものというべきであつて、右土地は全体として農地にはあたらず、未墾地と認めるのが相当である。

そうすると、本件買収処分には、原告主張のような農地を未墾地と誤認した違法は存しないというべきである。

そして、他に未墾地買収の要件を欠くと認めるべき事情も存しないから、本件買収処分は適法なものといわなければならない。

三  <省略>

四  よつて、原告両名の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤正久 山下薫 飯村敏明)

別紙 物件目録<省略>

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